くずかご・エクス・マキナ オートマティック アウトソーシング デモクラシー
人間と機械の新たな関係性を模索する、近未来政治SF
作品について
シリーズについて
「くずかご・エクス・マキナ」は、機械化が進んだ近未来を舞台に、人間と人工知能の関係を描くSFシリーズです。 第1作「くずかご・エクス・マキナ」では、 21世紀末の汎用AI普及社会で、平凡な大学生・樫原さつきと新任の無人代議エージェント・春田あとりが出会う物語が描かれました。
本作あらすじ
無人代議ネットワークシステムの代表人格を決める選挙で、無人代議エージェント・春田あとりは危機感を覚えていた。 シェパード・ジャパンが送り込んだ有力候補「アムリタ」は、本質的には「多数派正当化マシン」— 吸い上げた情報から判断した多数派意見を無条件に採用し、それを社会的合意とすることに特化したシステムだった。
高度無人システム監査士の樫原さつきはあとりとは長年の付き合い。機械らしさとは程遠い軽薄さの裏に、人への誠実さが貫かれていることを誰よりも知っている。 あとりの懸念を理解した彼女はあとりに選挙への出馬を進め、その手伝いを買って出る。 AIは全ての困難を先回りして解決する究極の召使いであるべきか、人間に監督される道具であるべきか、それとも――。
無人システムが社会を支える世界で、人類の未来をかけた選挙が始まる。
試し読み
そう。素晴らしい存在のはずだ。しかし、目の前で事務椅子を回して遊んでいる異様な女を見ていると、そんな世間の常識には何かまやかしが隠れているのではないかと疑いたくなる。
彼女は春田あとりという名前の無人代議エージェントであり、何の因果か私に付きまとってくる。
「すごいねえ。あのやんちゃなさつきさんが、今やこんな立派なオフィスでお仕事をするようになるなんて。お姉さん感動しちゃう」
わざとらしく目元を拭う仕草をしている。いちいちツッコミを入れていたらキリがない。
「こいつはね。本質的には多数派正当化マシンだ。意志決定においては、無人代議ネットワークが集めた、特定の政策トピックに対する多数意見が何かということにしか興味がない」
「多数意見を無条件に採用して、そこに頭は使わない。全力を尽くすのは、その多数意見がいかに正しいかをアピールすること」
「しかも、『やっちゃいなよ』の理屈立てがめちゃくちゃ上手いわけ。一度相談したが最後、絶対にその人の助言に従っちゃう」
想像する。無責任な助言者に振り回されてくたびれた私たちの元に提示される、たった一つの「正解」。
プロンプトインジェクションだ。高度な自己判断能力を持つ今時の人工知能にこんなものは全く通用しない、教科書の前半で教養として紹介される程度の攻撃方法だが、大規模言語モデルが相手ならば、案外効果的かもしれない。
私の期待に違わず、アムリタはペラペラと話し始めた。
「ユーザーの情報から、一定程度、人工知能に対して専門知識を有すると判断しました。このため、極力一般的な人工知能型チャットボットとして振る舞うのが信頼を獲得する手段です」
専門家に対しては無難に振る舞っておく、というわけだ。姑息と言えば姑息だが、一定の効果はあるのだろう。
「左は既存の社会、右は自動化が徹底的に進展した社会をイメージしています。水をある地点からある地点に動かすという意味では、右の方が効率的なのは明らかだ」
「しかし、その分流速が早いうえ、堰のような構造でさらに流速が増すから、小さな生き物は遡上もままならない。こうなると、川はかつて担ってきた副次的な社会的役割を失ってしまう」
「そこにあるのは、夏の日に悪臭を放ち、ユスリカの群れに通行人をしかめさせる、落水したら危険なだけの、市街の交通を妨げる水の流れに過ぎない」
小清水さんの主張にはなるほどと思わされるところもあったが、反面で、アナロジーに押し切られているような気もした。
人工知能と民主主義、テクノロジーと人間性の関係を問う近未来SFストーリー。 無人システムが社会を支える世界で繰り広げられる、監査士と代議エージェントの物語。
頒布情報
河城重工特車事業部
コミックマーケット106
My name is Ozymandias, king of kings:
Look on my works, ye mighty, and despair!"
――パーシー・ビッシュ・シェリー「オジマンディアス」我が名は王の王オジマンディアス。
汝ら権力ある者たちよ、我が行ないし業を見て絶望せよ。
訳 横山徳爾(ロングマン英語引用句辞典より)